【遠い響・近い声】特別記者・千野境子 与那国島それからの異聞(産経新聞)

 大きな夢を語りにくい時代といわれて久しい。大言壮語もあまり聞かれなくなった。しかし丁寧で地に足の着いた夢や提案なら小さくとも人々の心に十分届く。

 先日、東京で行われたフォーラム「国境・離島・海洋から考える新しい邦づくり」(財団法人都市経済研究所主催)というちょっと変わった名の民間会議で、大学生の与那国島に関する研究発表を聞きながら思ったことだった。

 ちなみに沖縄県与那国島は、台湾まで111キロの至近に位置する日本最西端の国境離島である。

 発表の1番手は中京大学総合政策学部3年生の2人で、「『島』の自立と発展に向けて」と題し有人国境離島振興法を提唱した。

 尖閣諸島の二の舞いにならぬようにと前置きした2人は、「尖閣諸島は海底資源が判明して中国が領有権を主張し始めた。昔は有人島だった尖閣がその後も有人だったら話は違ったはず。だから国境離島は有人が絶対条件だ。人々が暮らすことに手厚い保護を」と力説した。そして人口減少と高齢化に悩む与那国島の救済策として(1)台湾との定期航路を持つなど航路の国道化(2)特産品などの産業保護(3)高校の設立−の3つをあげた。

 人口減の大きな要因は島に高校がないことで、中学を卒業し島を出た後はほとんどが帰島しない。設立要件を緩和し高校を作ることと、議員立法を利用し新法を作ることが提案のミソだった。

 次に発表した東海大学海洋学部4年の女子学生は「C(コミュニティー)FMを利用した離島振興策」を提案した。いま全国にこうしたFM局は約240もあるそうで、与那国島でもAMよりFMが聴取されていることに着目、奄美FMを参考に地域情報発信拠点として構想したという。

 実際に与那国島を訪れCFMを思いついたという女子学生は「番組のコンテンツは防災、教育、伝統芸能、産業、通販などいろいろ考えられます。CFMは数千万円でできるので防災無線より割安。離島の身の丈にあっています」と長所をさりげなくPRした。

 会議を傍聴していた内閣府海洋政策本部の参事官や沖縄県議会議長ら海洋問題の専門家たちも一様に感心した様子。まだ一般の関心が薄い国境離島問題を身近に感じさせる柔軟なアプローチや発表の工夫などがとくに好評だった。

 中京大組は「クイズ与那国島検定」も用意していた。また女子学生の指導教官の山田吉彦教授によると、CFMは具体化へのめどが見えてきているという。

 記者が「与那国島が危ない」を連載したのは昨秋のこと。町議会が求めた自衛隊の部隊配置計画が政権交代で宙に浮いたためだった。今年1月、町は再び部隊配置を打診したが、過疎化や経済の疲弊さらに防衛の空白が続く現状は、島民にはもとより国益の点からもマイナスは大きいと感じる。

 離島が領海や排他的経済水域(EEZ)の問題に重要な意味を持つことは、強調してもしすぎることはない。陸地面積が世界60位の日本がEEZでは6位になるのも、一に離島(総数6847のうち有人は422)のおかげだ。近年は海洋資源、シーレーンの見地からも重要性は増している。

 その割には施策も対症療法的なら国民の関心も低かったというのが現実だろう。日本が海洋国家を標榜(ひょうぼう)するなら、いまこそ安全保障を含めた総合的な国境離島政策が必要だ。大学生たちの研究発表もそうした関心への一歩となってほしいと思う。

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